注文の多い料理店100周年記念
おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。
誰もが一度は耳にしたことがあるであろう、いや、目だろうか。
宮沢賢治、注文の多い料理店。
1924年、彼は生涯で唯一の詩集である「春と修羅」、童話集の「注文の多い料理店」を刊行した。そう、今は2024年、ちょうど100年前のことである。
そして短編集の「注文の多い料理店」は12月1日刊行である。
そんなこともあり、宮沢賢治の故郷である岩手県花巻市、そこにある宮沢賢治イーハトーブ館や記念館などでは各種催しが開催されている。
さて、なぜこんな話になったかというと、ひょんなことから100周年の同日、つまり2024年の12月1日に錫杖の「注文の多い料理店」を登ろうという話になったからだ。
錫杖といえば色々な文学作品のタイトルがルート名として付けられているが、「注文の多い料理店」はその中でも代表的な人気ルートで、クライミングとしても「色々な要素が詰め込まれている」まさに注文の多いルートである。
私自身、錫杖は過去に冬の北沢大滝~本峰正面ルンゼ(23年2月)、注文(23年9月)、見張り塔からずっと(23年10月)、グラスホッパー(24年2月)など4回ほど訪れているが、実は錫杖のあの雰囲気が結構好きで、もっと登りたいなと思っているのであった(アプローチも比較的いいし)。しかし岩のルートを冬期登攀するいわゆる冬壁はやっていない。
しかーし、しかしだよ奥さん。標高2000m前後の錫杖岳、12月ともなると雪がついている(はず)。そして注文の多い料理店は岩、フリークライミングのルートである。つまり今回は冬壁登攀となる。冬の錫杖はクライマーたちのイーハトーブですよ旦那。
ああ、これは辛い奴だなと思いつつ、100周年、それも刊行した日に登るなんて一生に一度のチャンス、二度と訪れないので是非やろうという気持ちになった。何が何でもやるぞー。雨?知らんがな。
というわけで、前哨戦?としてまずは宮沢賢治を知ろうという気持ちになり、急遽東北の旅に出かけ、宮沢賢治の墓所、イーハトーブ館、宮沢賢治記念館、Cafe山猫軒などを訪れたのであった(本命はぼのぼのの作者、いがらしみきおさんの生まれ故郷、つまり聖地巡礼であったことは秘密である)。東北はいいところだ。なんだかんだ宮沢賢治のことは知らなかったのでいい勉強になったのである。
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イーハトーブ |
日程:2024年12月1日
天気:どんより曇り空
山行形態:厳冬期アルパインクライミング、つまり冬壁だ!
メンバー:がんちゃん、ひろゆき、岩瀬た
主な共同装備:ハーフロープ50mx2、カム0.3-4を1セット、1-5を1セット、オフセットナッツ、トライカム、イボイノとテリア1、アブミ(使わず)、墜落したドローン
本当は11月30日から入山し、アップがてら左方カンテか1ルンゼ左などをやろうと思っていた。しかし天気予報が微妙に雨マークがついたりしていた。濡れたくないしなぁ。。。本命は12月1日の注文なので、、ということで木曜の夜に協議の結果、日帰りプランに変更となった。テント泊パッキング解除だわ。気が楽でいい。
アプローチ
時刻は3時半ごろ。予定より30分遅れのスタート。いつもの事。気温は2℃。
ほんのりと雪がちらつき空気は少し湿っていた。
ダラダラ歩いて3時間もあれば注文の取り付きに着くはずだ。
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人気のない槍見温泉のバス停にて
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登山口で異変に気付く。
おかしい、雪なんてほとんどないと思っていたはずなのに、雪があるじゃないか。
不安に思いつつも進む。しばらくすると靴が埋まる程度の雪となった。
うーむ、ゲイターなんてものは付けてないし、これは思ったより時間がかかるんじゃないかと先行きが不安になる。時折見かける動物の足形をみてそんなことは忘れることにした。癒しだ。
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足形 |
渡渉点についたころには、靴はずっぽり埋まり、時折ひざ下あたりのラッセルとなった。
こちとら雪があってもラッセルほどでは、、、と思っていたのでタイツonクライミングパンツだ。防水性はおろかまともな撥水性も無い。
私のズボンはみるみる色を変えていった。膝がキンキンに冷たい。世の女性たちもびっくりなぐらいタイツもびっしょりだ。が、不思議と寒くは無かった、今日の気温と風の具合なら余裕だなと思った。
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なんだこの雪は
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岩小舎に着くころにはいい時間になっていた。腰を下ろしローソンだかファミマで買ったおにぎりをコカ・コーラ社製の炭酸飲料で流し込む。やはり冬はキンキンに冷えたコカイン入りドリンクが最高だ。
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このズボンね、びちょぬれなんです
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この先もラッセルが続き、時折腰まで埋まった。なんてこったパンナコッタの様に真っ白な雪は、気温が上がるにつれ重くなっていた。睡眠不足の私の気持ちも少し重く、いや、大分重く、ロープを持っていない岩瀬たにラッセル隊長を任せ、待ち時間の間に仁王立ちで目をつぶっていた。時折ツイッターを眺めながら。
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人生ラッセル |
9時前、烏帽子岩前衛壁に空はどんより薄暗かった。パラパラと重たい雪が舞っていた。
3時間を見込んでいたアプローチは5時間半の時を浪費していた。
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取りつきの北沢
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ギアの準備をしながら、これは上まで抜けるのは厳しいな、などとあーだこーだ相談しながら、一人1ピッチリード出来れば満足できるだろうから、日の入りを考えて14時を目途にそこから進むかどうか判断しよう。ということで満場一致した。
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烏帽子岩前衛壁
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「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」
1ピッチ目:がんちゃんリード、30m
1ピッチ目は私の希望(というか他のピッチをリードなんて出来る気がしない)でリードさせてもらう。アプローチ中もだが、1ピッチ目は結構悪くて難しいとひろゆきが不安を煽ってきていた。その言葉に嘘偽りはなく、プロテクションを取るのが難しそうだ。
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登攀準備中 |
こちとら冬シーズン初のアイゼンでござる。アイトレ?そんなものはここ数年していない。男は黙ってぶっつけ本番と決まっているのだ。
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出だし、悪い |
右往左往したり、心もとない薄い凍った(半解凍)草付きにイボイノシシを半分打ち込んで見たりしてドキドキする。イノシシ鍋を食べたいなぁと思いながら打ち込む。
なかなか浅い。井戸のように深い草付になんとかイボイノシシを全部打ち込めた時には安堵した。そこからちょっと右でマイクロカムを決めたり、ナッツをこれでもかと捻じ込んでみたり。
テリアは全く効いてなかったが、心の支えとしてそこに置いていった。
細かいスタンスに乗り、無駄にアックスをたたき、岩が焦げる臭いを鼻で感じながらジリジリと少しずつ身体を上げていった。
ひろゆきに煽られたとおり、特に出だしの10m程度はプロテクションを取るのが難しかった。10mほどでなんとか広々としたテラスで落ち着くことが出来たが、私の気持ちは結構消耗していた。この丸まるとしたアイゼンの爪のように。シャープな切れ味などない。
あとどれぐらいか聞くと、今5分の1ぐらいと声が返ってきた。
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ちょっと絶望テラス
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は???マジで?まだそんだけ???10mぐらい伸ばしたんだが?と上の壁を見つめ私は絶望した。流石にそんなはずがないだろう、と思いながらも、まだそんなに残っているのであれば余裕でプロテクションが足りない。
もう一度聞きなおし、いやさすがに3分の1ぐらいはいっただろう、だってあの木の横のテラスが終了点で、、と落ち着き、進むことにした。進むしかないのだ。
怖いトラバースをこなせば草付きが増えてきた。草付き大好きマンとしてはかなり安心できた。
丸くなったアックスの歯と、丸くなったアイゼンの歯を効かせながら、岩の上に乗った湿った雪を、湿ったグローブで払いのけスタンスを探しながらグイグイと進んだ。
1時間20分。なんとかやり切った。
30分ほどかけてフォロー二人を迎えいれた。二人ともこれは難しい、よくやったと言ってくれた。
僕はどや顔。
2ピッチ目:ひろゆきリード、25m
通常であれば5.8-5.9ほどのピッチなので難しいはずがない。
が、今は12月1日。雪はさておきグローブにアイゼン。
難しくないわけがなく出だしからやばそう。
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2ピッチ目 |
出だしは何とか乗りあがり、ズリズリ奮闘している。
その後も小さい突起をひろいながら(ひろゆきなだけに)フェースを登ったり。強すぎる。ああ、見ているだけでしんどい。
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奮闘する |
やはり13トラッドクライマーは強いな。私は前日に初めての11台を落としたのでイレブンクライマーと煽られていた。トゥエルブスポートクライマーと煽り返しておいた。トラッドの方が最高グレード高いってなんやねん。
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これがトラッド13クライマーか
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私は余裕のカムエイドやユマーリングでスピード重視。余裕といいつつ余裕では無かったが・・・。
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素手 |
時間的にはまだいける。あとは本人の気持ち次第。折角なのでと煽ってスターティン。
ビレイする手に力が入る。
結構厳しそうなので、落ちる前提でオレンジのロープを張り気味に、落ちてきても当たらないように場所を考えて身構える。
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挑戦するのがかっこいい
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奮闘of奮闘でルーフ越えをなんとか突破か!?左足微妙に乗れてるぞ、あと1ワンムーブか!!うぉー!!!といったろところで不意に右手が抜けたようで無念のフォール。
惜しかった。
その先をもう一度見直し、行くか?やめとくか?となり、本人的には十分楽しめたようで、またリベンジするわ!!となり明るいうちに余裕持って帰れるし結果オーライとなり無念の敗退で懸垂!!
50mいっぱいで、墜落したドローンを途中のテラスで回収して(いつのまに)取りつきに戻り一息つく。
なんだかんだみんなリード出来たし、楽しめたので一本満足バー。
デプローチ
雪に黄色いマーキングを残し、デプローチは錫杖沢(だっけ)を一直線にラッセル下りでそそくさと下山。
登山道はドロドロヌルヌルで岩も出ており、今まで食べた食パンの枚数を覚えていないように、何度滑ってコケたかは覚えていなかった。ヘッデンの電池も切れたが、変えるのが面倒でスマホ片手に炎上案件だ。
完走した感想
この薄っすらと雪化粧した錫杖には我々しかいませんでした。
100周年記念日はもう二度と訪れない。
only one.
今回の山行は楽しく充実したものではあったが、この時期にこの雪のコンディションでこの・・・深い事は考えてはいけない。
岩瀬たがフォールした動画は本人たっての希望でYoutubeにアップしたので是非見て頂きたい(むしろリベンジしたいとやる気を出していた)。
尚、よくわからないコメントも受け付けているが、よくわからない返しをすると思うのでご了承いただきたい。
以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。
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