訪れる冬の空気、匂い、そして雪
昨年滑って転げ落ちてすってんころりん右手首を骨折した重太郎新道の現場検証に行ったわけでは断じてない。そう、そこは前穂高岳北尾根。ちょうど1年前に槍穂高縦走をした際に見たその景色。私はあそこを登りたいと思った。まさかこんなに早く挑戦するとは思っていなかったが、ひとえに付き合ってくれる仲間たちのおかげだろう。感謝だ。
痺れる前穂高岳北尾根登攀
山行概要
日程:2021年10月22~24日
山行形態:テント泊
メンバー:がんちゃん、たまさん、佐藤さん
主な装備:50mシングルx1、カム#0.5~#3x1セット、ダブルアックス、3テンx1、ツェルトとか
<1日目:上高地~横尾~涸沢~56のコル>
玉さんと車移動。沢渡から始発のバスに乗り上高地バスターミナルで佐藤さんと合流。ギア類を軽くチェックしスタート。
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ギアチェックよし |
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河童橋 |
実は涸沢には初めて行く。だらだらとした憂鬱な道をひたすら歩く。ただそれだけだ。数日前の降雪によってぼちぼち積雪している。思ったより多いが特に問題はなく涸沢ヒュッテへと到着。
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雪が増えてきた |
今回は2日(+予備日1日)の予定なので1日目に5・6のコルまで上がってビバークする作戦だ。休憩しつつこの日のビバーク地である5・6のコルへの道を確認。ああでもないこうでもないと言いながら凡そ検討をつける。テントでお湯を作るのは大変なのでヒュッテであらかじめ作っておいた。
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前穂高岳方面は少し雲が出てきている
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ヒュッテより奥穂高岳方面
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休憩後、5・6のコルに向けて再出発。涸沢ヒュッテは標高2309mで、5・6のコルは2723mなので400mほど上がることになり、夏道だと1時間半前後かかるようだ。ここからは斜度も少し出てくるのでアイゼンを装着。斜面はそれほど急なわけではないのでこの時点でピッケルは不要。雪は深い所で膝下まであったが前日に付けられたのだろうか、1人?2人?のトレースが残っていた。ルーファイもラッセルも苦労せずに済むのでありがたい。
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5・6のコルへ向けて
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このあたりから少し空はどんよりしてきて、コルに近づくとほんの少し雪が降ってきた。コルは見えているがなかなか着かない。近いようで遠く憂鬱な気分となり足がなかなか上がらない。辛い、ダラダラ進む。
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2か所ほど目印となる木が立っていた
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コルは見えるがなかなか近づかない
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上高地バスターミナルから9時間、ゼーハー言いながら涸沢から2時間半をかけ16時に5・6のコルに到着。テントは2張ほど張れるだろうか。適度に整地したのちテントを張った。ザックは邪魔になるので外に出してツェルトでくるんでおいた。
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5・6のコル、ガスってきた
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今回の幕営の失敗点としては靴を北側の前室に置いたことだろうか。通常冬山では凍らせたくないものはテント内に入れ、袋に入れたりシュラフに入れて一緒に寝たりするわけだが、3テンで狭くいということもありテント内に入れるのも億劫だったため適当にしてしまった。
結果、風の通り道であるコルに吹き上げる風雪によって、前室にも雪だまりができ靴は雪まみれでガチガチに凍ってしまった。まるで初心者のような失敗である。靴が冷たいのは平気な方ではあるが正直なところかなりのやらかしであり、凍傷リスクもあるので絶対にしてはいけないミスだ。入口の向きももう少し検討すべきだったか。
<2日目:56のコル~前穂高岳~重太郎新道~岳沢~上高地>
6時ごろに出発する予定で5時起床。朝食は早ゆでパスタに明太子ソースを。
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尾西の米袋を器にしてパスタ
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外は快晴だがコルに吹き上げる風が強く撤収作業がなかなか捗らない。外に出していたザックをテントに入れてから荷物を片付けた。
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モルゲンロート |
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強風と朝日のコントラスト
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たまさんはアタックせずここで別れて下山するため、まるで極地法のごとくテントを持って下ってもらうことに。ありがとうございます。これががんちゃんの登山スタイルだ(そういうつもりではない)。結局出発は7時49分となり大幅に遅れてしまった。帰りの終バスば17時ぐらいなので先を急ぐ。まずは5峰の登り、ここはフリーでサクサクと登っていく。
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振り返ると絶景
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どこを見ても絶景 |
次に4峰。ここもフリーで登るが以外と長かったり岩と雪のミックスだと悪い所もちらほらあり結構時間がかかってしまう。4峰への登りは要注意箇所で、最初は涸沢側から入り、中間部で奥又側に出て浅いルンゼ状を登っていく。この辺りは雪の状態によっては意外と悪くなるため必要に応じてビレイした方がよいだろう。
4峰の頭ではそのまままっすぐ行けば階段状になっており3峰のコル方面へ下れるのだが、その頭にアイゼンで乗り上げるのに躊躇してしまう。
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4峰のルーファイ |
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快晴
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アイゼンでのハイステップは辛い
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結局まっすぐ行けるのかどうかわからず、悩んだ挙句右側から懸垂で巻くことに。巻いてみたらまっすぐ行けることがわかったので、佐藤さんにはまっすぐ行ってもらう。これで30分ほど時間を使ってしまい、時間的に中々厳しいことを悟り始める。
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4峰の頭、ここをまっすぐ行くのに躊躇した
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やっと本格的な登攀区間である3峰の取り付きへ到着。序盤は簡単そうなのでロープは出さず登れるところまで一気に登ってしまう。徐々に壁も立ち、難しそうな雰囲気が出たところでビレイすることに。正直どのピッチをどう登ったかは覚えていないが、とにかく岩と雪のミックスで大変だった。
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3峰 |
本来ならクライミングシューズでフリクションを使って登るようなところも、アイゼンで登らないといけないためかなり難易度が上がっていた。上高地からの終バスに間に合わないのは目に見えていたが、とにかく暗くなる前には山頂に着きたい。A0、A1を駆使し、ドライツーリング。ダブルアックスにしていてよかった。アドレナリンはドバドバでかなり痺れる登攀となった。
そうこうして気づいたら3峰は終わり、2峰の頭へと出ていた。どうやら3峰と2峰の間ははっきりしない感じである。2峰からは懸垂下降もしくはクライムダウンを出来そうではあるが、そこは足場がイマイチよくわからないし、アイゼンだしで、佐藤さんの「行けるんじゃない?」と言う言葉にもイヤイヤ俺は無理だと強く反発して、多少時間がかかっても懸垂下降をすることに。懸垂の距離はほんの数メートル。このあたりの写真は無い。そんな余裕はなかったのだ。
下った先からあとは山頂へ向けてコンテで上がっていく。ほかにもコンテで進んだ区間がいくつかあるが基本的には佐藤さんに先頭を行ってもらった。雪がない季節であれば余裕だろうが、そこは別世界。しっかりランナーを取りつつ進まないと正直怖い。取ってても怖いが。
そしてようやく山頂へ。17時15分、無事に到達することができた。行動開始から約9時間。出発時間が遅れたのもあるが、計画が甘く、そもそも自分たちのレベルの低さも露呈したとしかいいようがない。
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この絶景を二人占め |
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山頂にて佐藤さん |
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山頂でコーラ
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さて、そんなことを言っていても仕方がない。ここからどうするかを考えた。重太郎新道の下山は少し心配ではあるが、予定通りそちらから下ることとした。
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この景色に疲れも吹き飛んだ
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言葉が出ない |
下ってみると意外と雪が多くトレースもあり比較的下りやすかった。下手すりゃ無雪期より下り安いのではないだろうか。紀美子平へは19時ごろに到着し、岳沢小屋でしばし休憩したのち午前0時35分、16時間46分の行動を経て、無事に上高地バスターミナルへと下山した。このあとバスターミナルでビバークしたのは言うまでもない。
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意外と雪が深かった
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岳沢小屋にて休憩
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以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。
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