[アルパイン][試練と憧れへの挑戦]剱岳・剱尾根主稜ワンデイ 2023/6/25

2023/06/26

2023年 アルパイン クライミング 山行記録 登山 日帰り山行 北アルプス 無雪期 剱岳

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剱尾根主稜を1日で登った軌跡

前置きが少し長いので(本文もだが)要注意。山行記録だけを読みたい方は少しスクロールしてくださいね。

剱岳のバリエーションルートの中でもクライミング要素が強く、比較的難易度の高い剱尾根主稜。ルートグレードが4級、ピッチグレードはⅣ A1(Ⅴ+、A0?)とされているルートだ。

本ルートはアプローチで半日(8時間程度)はかかるため、通常は登攀日含め2泊3日の行程だが、そんな「試練と憧れ」(言いたいだけ)なルートにいつか行きたいなぁと思っていた。

そんな矢先、ひょんなことから「試練しかない」この山行に挑む事となったのはムラっちの「剱尾根行きませんか、日帰りで」。この一言である。

それに対して私は1秒もかからずに「行く」と返事してしまっていたのだ。私はもちろん、ムラっちも深く反省していただきたい。何事も勢いが大事であるし、これまでそうやって生きてきたし、これからもきっとそうだ。だが、だがしかし駄菓子菓子深く反省していただきたい。駄菓子は「わさびのり」が結構好きだ。

さて、このルートの1dayアタックについては以前、ヤマレコで同様のやばそうな記録(17時間)を見た事があったがまさか自分がやるとは思っていなかった。と同時に、この記録を非常に参考にさせて頂いたので感謝感激大雪渓である。

やると決まればまずは装備の確認。靴については、ロープを出さないまでもそこそこのクライミングが必要なところでは縦走登山靴だと重く登りにくいので、アプローチシューズで行き、ロープを出すピッチはクライミングシューズで登る事にした。

そうなると問題となるのは雪渓である。ローカットのアプローチシューズ(コバ無し)でも使えるアイゼンが必要となる。調べたところ、アマゾンの中華アルミアイゼンや各メーカーの軽量10本爪アイゼンが使えるらしい。

というわけで早速ペツルのレオパードFLを調達した。安い中華アイゼンでも良かったがスキーブーツでも兼用できそうだしこれでいい。最近はブルーアイスが流行りらしいが、オレンジ色だという理由でペツル一択だ。尚、装着方法などはこちらを参考にした。それにしてもクライミングはお金がかかってしゃあない。私のような上級貴族でなければ続けるのは難しいのではないだろうか?ちなみに鳥貴族の好きなメニューは以前のささみわさびだが、今のはマイチェンされてワサビが全然美味しくない。

前置き終わり。長くて申し訳ない。

山行概要

日程:2023年6月25日(21時間52分)

天気:晴れ

山行形態:アルパインクライミング

ルート:馬場島~池ノ谷~剱尾根主稜~剱岳山頂~早月尾根~馬場島

メンバー:がんちゃん、ムラっち


剱尾根へのアプローチは室堂からもあるようだが、今回は馬場島からとした。

装備

主な共同装備:50mダブル(7.3mm)x1、カム0.3~2x1、アブミx1、60cmアルヌンx10本、ヌンチャク2本

主な個人装備:登攀装備、軽量バイル(ペツルガリー)、10本爪アイゼン、アプローチシューズ、クライミングシューズ、GoPro一式、ドローン一式


今回は相当ハードな行程(長時間行動+クライミング)なのでとにかく装備の軽量化をしたい。軽さは正義、スピードアップ=安全に繋がるのだ。といっても何か特別な準備を今回のためにしたという事はない(ギアは既に人並みに選りすぐっているので)。


むしろ撮影機材が嵩張るし重いしでどうなってんだという感じ。参考にならなくて申し訳ないが、折角なのでよく見るアレな感じで装備を並べてみた。スタート時のパッキング重量(飲食料込み)は13kgだった。ムラっちも11㎏ぐらいだった。

細かいアイテムリストはインスタにアップしようと思うので(たぶんしらんけど)そちらをチェックして頂きたい(ついでにフォローするといいと思います)。動画?Youtube(がんちゃんんねる)のチャンネル登録お願いします!!


食糧

初期水分:コーラ700mlx2、水500ml(ハイドレーション)。


飲料水は渡渉地点と池ノ谷雪渓から採れる事を期待して初期装備はコーラ700mlx2+水500mlのみで軽量化(全然軽くない)。深夜から朝方にかけてなので序盤はそれほど汗もかかないはず。帰路は早月小屋で購入する事も出来ると思わせて小屋営業はないので雪渓からなんとかするしかない。。(小屋の人はいたけど)


予定では18時間行動を想定し、64kgぐらいな私は出発前の食事である程度腹を満たして、予備食糧と合わせて4500kcal程度(コーラ含む)あれば十分かなと想定(割と適当)。実際に行動食として携帯した物は下記の通りで、普段よく持って行ってるものから、あまり持たないものも含め、甘い、辛い、酸っぱいをブレンドし飽きないようにした。実際に消費したもの(カロリー)を下に記載。


容量(g,ml)カロリー(kcal)カロリー/1g数量総重量(g)合計カロリー(kcal)消費数余り接種カロリー
柿ピーわさび271254.5725525011125
柿ピー梅しそ271254.57255250020
銀河のドライソーセージ372145.7827442820428
ソースカツ4枚入り552664.8415526610266
じゃがびー バター醤油402305.7514023010230
じゃがりこサラダL683394.9916833910339
コカコーラ700ml7003150.452140063020630
きびだんご301093.63412043640436
きなこ棒20804.0048032040320
オールレーズン20562.80120561056
スナックサンド ミルクキャラメル1002582.58110025810258
カリカリバナナチップス1005335.331100533010
スローバーチョコ411924.6828238420384
大粒ラムネ強炭酸シュワコーラ25883.5225017620176
ぶどう糖91%梅ラムネ501863.7215018610186
スッパイ大作戦コーラレモン702403.43170240010
カンデミーナドリーム722483.44172248010
つぶグミ 濃厚キウイ752643.5217526410264
大粒ポイフル802833.5418028310283
フィットチーネグレープ501723.44150172010
トータル229845563648
辛い
甘い
すっぱい

4500kcalほど持って、3500kcalほど食べたのであった。


山行詳細

<出発まで>

土曜の天気予報があやしいので結局月曜有給にして日曜アタックとした。馬場島は駐車場すぐ横に無料のキャンプ場があるのでそこでテントを張って寝る事にした。

綺麗なトイレや水道もあるキャンプ場

ギアチェックと早めの夕食を済ませ、馬場島から剱に入るのは初めてなので、例の石碑で記念撮影をしてワクワクしながら少しばかりの緊張感と共に17時ごろ眠りについた。が、19時ごろにテントを叩く水の音で目が覚めた。

その後はなかなか眠れず、浅い眠りを貪り結局22時半に起床、朝食(朝?)を済ませた。朝食はいつもの山行時の朝食ルーティーンお稲荷さん(ミニ3個)、オニギリ2個、バナナ1本、軽いカフェで約900~1000kcalだろうか。快便であった。水は多めに飲んでおいた。

午前0時55分スタート。予定では18時間行程の長い長い「試練」の1日が始まった。睡眠不足という事もあり一日中眠かったが、最後の方は覚醒していた。

13㎏ほど

<馬場島~雷岩徒渉地点>

笛を吹いたような鳥の鳴き声を聞きながらしばらく林道を進む。林道が広くなった坑道手前で(間違って坑道に入ってしまったので1マス戻る)左手に高巻き道があるのでそこを上がる。

高巻きはかなり悪い

嫌になる巻き

雨のせいか、夜露なのかびっちょびちょだし、斜度もありズルズルで早速の核心。全身がびちょ濡れになった。

高巻きが終わりトラバースしたり、藪漕ぎしたりで頑張って白萩川に降りる。この時点で服も靴もびっちゃびちゃになり、渡渉・・・?靴脱がなくてもええやろ。という気持ちになる。

<雷岩徒渉地点~池ノ谷>

雷岩を目印に渡渉する。水量が多くないので靴は脱がなくて良さそうだ。岩をジャンプして渡渉するが、既に靴の中も濡れていたので絶対に落ちないぞという強い意志はなく、適当にちゃぽんしてしまう。気にしない。水はとても冷たかった。

なぜなのか

この先の雪渓で水を確保できるか分からないのでここで水を汲んだ。ハイドレーションは250mlほど減っていただろうか。2リットルまで増やし、この時点で3.4リットルの水分とした。結局雪渓でも水は採れたが、最終的にこの山行で5リットルほどの水分を摂取した。気温自体は高くなく、暑くも寒くもない丁度いいぐらいだった(恐らく10度前半、晴れていたので、日が当たると少し暑いぐらい)。

渡渉し、またびちゃびちゃの藪漕ぎが始まる。結局全身ずぶ濡れになるのだ。絞った靴下もまたびちょびちょ。なんなんだチョコボール。

<池ノ谷~R10>

ここでアイゼンピッケルを装着する。池ノ谷雪渓自体は斜度も緩く、快適な登りとなった。チェーンスパイクでもいけるやんとナメた事を言っていたが、その先の雪渓は絶対無理なのでちゃんとしたアイゼンは必須。

雪渓からも水を確保出来そう

時折、落石が堆積している所もあり

運よく通過困難なクレバス、シュルンドもなくルーファイも必要無しでサクサクと進む事が出来た。心地良い風が吹き濡れた衣類は乾いたが、靴と靴下は家で乾燥機にかけるまで乾くことは無かった。

6時ちょうど、途中の二股は左に進みR10を目指す。ちなみにRとはルンゼの事をいうらしい。チンネはZか!?ももいろクローバー?ガンダム?

池ノ谷の二俣手前

<R10~コルC>

7時5分、R10の入り口へ到着。ルンゼ内に入るのは容易だったが、出だしで右側の岩から行くと少し悪かった。左にトラバースし、雪渓に乗り上げる。

R10の入り口

意外と雪渓が緩くて悪く、ぐちゃぐちゃでアイゼンもバイルも全然効かない。ほぼつぼ足と変わらんやんけと心の中で唱えながら、私のギャグのように滑らないように慎重に足を置いていく。滑ったら多分1発でアウト。爪は効かないので滑落停止もクソもない。ここで脹脛がパンパンになる。精神的にもかなり疲れた。

7時42分、R10を登り詰めコルEに到着。かなり狭いがここでアイゼンを外しハーネスを装着。しばらくハイマツ漕ぎを堪能する。嫌というほど堪能できる。ハイマツのトンネルが最高に嫌だった。しかも何度かあった。

門が聳え立つ

途中で露岩(Ⅲ+程度)があるのでここはアンザイレン。ムラっちがアプローチシューズでリード。フォローの私はとにかくスピード重視で登ったが、中間部が嫌らしく少しモジモジした。案の定、どうしたん?と聞かれた。

露岩はアプローチシューズで

これまた微妙なワンポイントが現れたのでアンザイレン。リードはもちろんムラっちに押し付けた。まだ出番じゃない(モチベーション的な意味で)。気付いたらⅡ峰を越えコルCへ辿り着いていた。

<コルCの登り~門>

11時20分、今回のグレード的核心、コルCの登り。

コルCからの壁

1ピッチ目40m:Ⅳ、A1(Ⅴ+、A0)、がんちゃんリード。

1ピッチ目は垂壁から右にトラバースしてカンテ沿いからフェイスを登る。トラバース箇所はよく見ると残置ハーケン、スリングが幾つか見える。折角なのでA1を封印してA0突破にトライ。思った以上にA0区間が長く続くので腕はパンプする。時折テンションを交えながらなんとかトラバース区間を突破。

トラバース後

カンテから楽になるだろと思ったら大間違いで、その先のフェイスも難しい。残置ハーケン
が多数あり、素直にかけていくと玉切れになるので要注意。ヌンチャクは12本持って行ったがちょいちょい架け替えてギリギリだった。そもそもゆるゆるハーケン多数なので落ちられないのもこれまた怖い。2ピッチ目は簡単でむらっちがリード。11時20分、フォローで登る。


コルCからの登り1ピッチ目の終了点より

この後再度ハイマツ漕ぎ地獄となり辛い思いをする。

<門~剱尾根の頭~長次郎の頭~山頂>

この剱尾根のハイライトピッチ、門。11時45分到着。グレード的にはⅣ+だが難しいのは最初の身体が入るクラックのみでその先は易しい。スタートはバンドだがここはノーザイルで進み、クラックからアンザイレン。

クラックの出だしは残置スリングがあったのでA0すれば簡単。クラックはあまり入り込まなければフリーで抜けられる。その次はスラブからのルンゼⅢをリード。このルンゼはガレガレで、フォローはロープによる落石にも要注意だ。

門はこのクラックがポイント

門の終了点より

この先は比較的簡単な岩場がちょちちょい出てくるが元気ならフリーで抜けれそう。疲れも出てくる頃なので怪しい所は時間をかけてでもアンザイレンした。山頂には陽が暮れる前に余裕で着けるので慌てず確実に進む事とした。

午後になりガスが

剱尾根の頭には15時7分頃到着。ここまで約14時間12分。このあたりはルーファイをあまり覚えていない。長次郎の頭周辺は岩が脆く要注意。長次郎のコルのトラバースは結構悪かったので、頭に一旦上がり巻く形とした。

登攀区間でドローンを飛ばしたかったが余裕は無かった。昼過ぎに時折ガスって来てがっかりしたが、稜線に出る頃には晴れてきたのでただの荷物にならないようにドローンを飛ばした。尚、今回ドローンで撮影するにあたり事前に富山森林管理署で入林届を承認してもらい、環境省の中部山岳国立公園立山管理官事務所に提出しました。詳細はこちらをご参照あれ。

登ってきた剱尾根が背後に

16時2分、剱岳山頂。15時間7分。お互いを称えあう。ムラっちが感動して泣いていた。ゆっくり写真を撮ったりして休憩する。

ドローンで撮るのもいいじゃない

<下山・早月尾根>

16時30分、下山開始。早く終われと心の中で2999回ぐらいは唱えたと思う。口から南無阿弥陀仏が仏の形となって出てくるぐらいに。途中で今回唯一のニンゲン(2人組)と出合う。池ノ谷~三ノ窓から登ってきたらしい。早月の雪渓嫌い。19時34分、早月小屋着。

緩く悪い雪渓の通過が一番神経を使った

馬場島手前、10分ほどの所でムラっちが茂みの中の熊を見つける。慌てふためく。スマホBGMの音量をMAXに左手に笛、右手にアックス、俺は真後ろでダッシュで駐車場に逃げ込んだ。逃げるしかない。THE BANBAJIMA DASH。

22時47分、行動時間21時間52分。馬場島に下山。無事に帰ってくる事が出来た。疲労感というより単純に眠かった。

<完走した感想>

まずこのバカげた企画をやろうとぬかした言ってくれたムラっちに感謝。

正直、自分が剱尾根を計画するなら普通に2泊3日で行ってたと思う。もちろん今回は移動日を含めると結局3日近くかかっているのだが、アタック日が休日1日目というのは大きいと思う。若干直前の天気予報に振り回されたが。

今回、うまくいったからこそ言える事かもしれないが(予定18時間に対して22時間近くかかったが)、決まってからのワクワク感やそれに向けての準備(トレーニングしてるふりとか)、当日の登攀内容、終わってからの余韻、すべてが異次元の充実した山行となった。何よりも空いてるのは最高(そもそもそんな混雑するようなルートでもない気はするのだが)。

振り返ってみて、やはり大事なのはパッションだよパッション、情熱だよ。と思ったのである。やはり私は剱・立山が好きなようで、これからも剱の色んなルートに挑戦してみたいなと再認識したのであった。早月尾根は下りでももう通りたくないが。

「憧がれる心に試練があり、試練を超えて其の道を歩き続けん」

試練と憧れ

以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。


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